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「1億円の壁」は本当?
超富裕層ほど税金が安くなるカラクリ

所得が1億円を超えたあたりから、なぜか所得税の負担率が下がっていく――。そんな不思議な現象が「1億円の壁」と呼ばれています。

「稼げば稼ぐほど税金が高くなるんじゃないの?」と思いますよね。日本の所得税は「累進課税」といって、所得が多いほど税率が上がる仕組み(最高で住民税と合わせて55%!)です。それなのに、なぜ「超富裕層」になると税負担率が下がるのでしょうか?

そのカギは、彼らの所得の「中身」にあります。今回は、この「1億円の壁」のカラクリと、最近話題の「金融所得課税」について、ズバッと解説します!

グラフで見る!「1億円の壁」の正体

まずは、このグラフを見てください。これは、所得金額と実際の税負担率の関係を示したイメージです。(実際の統計データに基づいた傾向を表しています)


所得が数千万円から1億円に達するまでは、所得の上昇とともに税負担率もグングン上がっていきます。これは、給与所得や事業所得にかかる「累進課税」がしっかり効いている証拠です。

ところが、1億円をピークに、それ以上所得が増えても税負担率が逆に下がっていくのが分かります。10億円、100億円と稼ぐ超富裕層になるほど、その負担率は20%台前半に近づいていきます。これが「1億円の壁」です。

なぜ「壁」が生まれる? 鍵は「金融所得」

この逆転現象は、所得の「種類」によって税金の計算方法が違うために起こります。

私たち経営者やビジネスパーソンが得る「給与所得」や「事業所得」は、「総合課税(そうごうかぜい)」の対象です。これは、色々な所得を合算した金額に対して、最大55%の累進税率がかかる仕組みです。

一方、超富裕層の所得の多くは、給与ではなく「株式の配当金(配当所得)」や「株式の売却益(譲渡所得)」です。これらは「金融所得」と呼ばれます。

そして、この金融所得(上場株式などの場合)は、総合課税とは別のテーブルで計算されます。これを「申告分離課税(しんこくぶんりかぜい)」と言います。

【専門用語解説:申告分離課税】

給与や事業所得など、他の所得とは「分離」して(合算せず)、それ単体で税額を計算する仕組みです。金融所得のほか、土地建物の売却益(譲渡所得)などもこれに該当します。

最大の問題は、その「税率」です。給与所得が最大55%なのに対し、上場株式などの金融所得にかかる税率は、所得が何億円、何十億円であっても一律 約20%(所得税15.315%+住民税5%)なのです。

つまり、所得1億円までは給与や事業所得の割合が大きいため累進課税が適用され税率が上がりますが、1億円を超えると所得の大部分が「金融所得」となり、一律20%の税率が適用される人の割合が増えます。結果として、所得全体に対する平均の税負担率が下がっていく、というわけです。

Aさん
えーっ! 役員報酬を必死に増やしても半分近く税金なのに、株で何億儲けても税率20%って…なんだか不公平じゃないですか?

その感覚、よく分かります。それこそが「1億円の壁」の正体なんです。所得の「中身」が給与か金融所得かで、ルールが全く違うんですよ。
税理士

Aさん
なるほど…。だから資産家は株や投資を重視するんですね。

そういう側面も強いですね。この「税率のねじれ」をどうするべきか、最近「金融所得課税の強化」が政治のテーマにもなっています。
税理士

どうなる?「金融所得課税」の強化

この「1億円の壁」問題、つまり「お金持ちほど税率が低い」という状況は、格差の象徴としてしばしば議論の的になります。政府も「資産所得倍増プラン」を進める一方で、この不公平感を是正するために金融所得課税を引き上げるべきだ、という議論が何度も浮上しています。

しかし、話はそう単純ではありません。税率を上げすぎると、こんな懸念があります。

  • 投資マインドの冷え込み: 「儲けても税金で持っていかれる」となれば、リスクを取って投資する人が減り、株式市場が冷え込む可能性があります。
  • キャピタル・フライト: 日本の税金が高いなら、と超富裕層が資産ごと海外に移住してしまう(=キャピタル・フライト)恐れもあります。

経済成長のための「投資促進」と、格差是正のための「公平な課税」。このバランスをどう取るか、非常に難しい舵取りが求められているのが現状です。

経営者が今、考えるべきこと

「1億円の壁」は、すぐに多くの経営者が直面する問題ではないかもしれません。しかし、この「所得の種類によって税率が全く違う」という構造を知っておくことは、会社の成長戦略を描く上で非常に重要です。

ビジネスで得た利益(事業所得)は、最大55%の総合課税の対象です。しかし、その利益を元手にした投資(=資産運用)で得た利益(金融所得)は、一律約20%の分離課税です。

目先の節税(経費を増やすなど)も大切ですが、その一歩先、「稼いだ利益をどう守り、どう増やすか」という視点が欠かせません。会社の利益を内部留保するのか、役員報酬として受け取るのか、あるいは会社として資産運用(※)するのか。(※法人の場合は個人の金融課税とはルールが異なります)

ご自身の会社のステージや個人のライフプランに合わせて、最適な「お金の残し方」を考える。これこそが、私たち中小企業診断士でもある税理士が最も得意とする「未来のためのタックス・プランニング」です。一緒に賢く資産を守り育てる戦略を考えていきましょう!

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