暗号資産(仮想通貨)で得た利益の確定申告漏れは、想像以上に深刻な事態を招きます。特に価格変動が激しい昨今、利益確定後に価格が暴落すると、手元に資金がないのに高額な税金だけが残り、最悪の場合「自己破産」に追い込まれるケースすらあるのです。
なぜそんな恐ろしいことになるのか?「売ってないから大丈夫」「どうせバレない」といった甘い見通しが、いかに危険かを解説します。
税金が発生する「瞬間」を知っていますか?
まず大前提として、暗号資産の税金(所得税・住民税)は、利益が確定した「時点」で計算されます。そして、その納税は原則として翌年です。
この「利益確定の時点」というのがクセモノです。日本円に売却した時だけだと思っていませんか?
- 暗号資産で別の暗号資産を購入(交換)した時
- 暗号資産で商品やサービスを購入した時
- もちろん、暗号資産を売却して日本円にした時
これらすべてが、利益確定(=課税対象の所得が発生)のタイミングとなります。例えば、ビットコインでイーサリアムを買った瞬間、その時点でのビットコインの含み益が「雑所得」として認識されるのです。
時価変動の恐ろしいワナ
ここ数年、暗号資産市場はジェットコースターのような値動きを見せています。これが「破産」リスクに直結します。
例えば、2024年中に暗号資産の交換を繰り返し、合計5,000万円の利益を確定させたとします。しかし、納税資金分を日本円で確保せず、利益のほぼすべてを暗号資産のまま保有し続けていたとしましょう。
そして2025年の確定申告・納税時期に、市場が大暴落。手元の暗号資産の価値が500万円まで激減してしまいました。
この場合でも、2024年中に確定した5,000万円の利益に対する税金(所得税・住民税は高額所得者の場合、最大55%)は、一切減額されません。数千万円の納税義務だけが残り、手元の資産は500万円…。これが「詰み」の状態です。
最悪のシナリオ:「破産」しても税金は消えない
「もう払えないから自己破産するしかない」——そう考える方もいるかもしれません。しかし、ここに最大の落とし穴があります。
通常の借金(銀行からの借入やクレジットカードの負債)は、自己破産が認められれば「免責」といって、支払い義務が免除されます。
しかし、税金(租税債権)は「非免責債権(ひめんせきさいけん)」と呼ばれ、自己破産をしても支払い義務が一切免除されません。
【専門用語解説:非免責債権】
これは、自己破産手続において、裁判所から免責許可決定が出ても、支払い義務がなくならない特定の債権(義務)のことです。国民の義務である税金や社会保険料、養育費などが代表例です。破産後も、これらの支払いは生涯ついて回ります。
つまり、暗号資産の税金が原因で破産した場合、他の借金はゼロになっても、高額な税金の滞納分だけは丸ごと残るのです。そして、税金を滞納し続ければ、給与や財産は容赦無く差し押さえられます。
破産リスクを回避する「3つの鉄則」
このような最悪の事態を避けるために、暗号資産取引を行う経営者や個人事業主の方が絶対に守るべき「3つの鉄則」をお伝えします。
1. 取引履歴をすべて保存し、即時計算する
「いつ、何を、いくらで、何に交換したか」全ての取引履歴(取引所のデータやウォレットの記録)を保存してください。そして、利益が出たらその都度、日本円換算でいくらの利益が出たかを計算するクセをつけましょう。
2. 納税資金は「日本円」で別途確保する
これが最も重要です。利益確定したら、その利益から想定される税額分(雑所得は他の所得と合算されますが、多めに利益の30%~50%など)を、即座に日本円に換金し、納税専用の口座などに分けて確保(キープ)してください。このお金は「ないもの」として扱います。暴落しても、この資金さえあれば慌てる必要はありません。
3. 「ヤバいかも」と思った瞬間に相談する
税務署から通知が来てから、あるいは暴落しきってからでは手遅れです。「計算が複雑で分からない」「もしかしたら納税資金が足りないかも」と感じた瞬間に、私たち税理士にご相談ください。早ければ早いほど、分割納付(延納)の交渉など、打てる手は多く残されています。
暗号資産は革新的な技術ですが、税務ルールは非常に厳格です。「知らなかった」は通用しません。賢く資産を増やし、ご自身のビジネスと生活を守るためにも、まずは「税」という守りの知識をしっかり固めていきましょう。

