国税庁から令和6事務年度(令和6年7月~令和7年6月)における「査察(ささつ)」の活動概要が発表されました。これは、一般的な税務調査とは一線を画す、悪質な脱税者を刑事告発するための強制調査、いわゆる「マルサ」の活動レポートです。
令和6年度に告発されたのは98件、脱税総額はなんと82億円に上ります。1件あたりの平均脱税額は84百万円(8,400万円)と極めて高額。今日の記事では、この最新データから、国税庁が今まさに狙いを定めている「悪質な脱税の手口」を徹底解説します!
裁判所の令状に基づき、強制的に調査を行う国税庁の組織(国税局査察部)およびその調査のことです。目的は、単なる修正申告ではなく、悪質な脱税者を検察庁に「告発」し、刑事罰(懲役や罰金)を科すことにあります。令和6年度の告発率は65.3%と、調査が入れば非常に高い確率で刑事事件に発展します。
令和6年度に「告発」された重点分野
国税庁は、経済社会の変化に合わせ、特に悪質・巧妙化する分野に調査リソースを集中しています。令和6年度に特に厳しく追及されたのは、以下の4分野です。
1. 消費税事案(告発29件)
国民の関心が最も高い消費税。ここでの不正は絶対に許さないという強い意志が表れています。特に、輸出免税制度や仕入税額控除を悪用した不正受還付(ふせいじゅかんぷ=国から消費税をだまし取ること)は17件告発されています。
- 手口の例: 高級腕時計の輸出を装い、実際は安価な時計で偽の書類を作成し、架空の仕入れと輸出売上を計上する。
- 手口の例: ネットオークションやフリマサイトでのトレーディングカードの売上を申告から除外し、消費税の納税を免れる。
ネット取引の売上除外など、身近なところにもメスが入っています。
2. 国際事案(告発20件)
経済のグローバル化に伴い、国際取引を利用した脱税も巧妙化しています。しかし、国税庁はCRS(共通報告基準)などにより各国の税務当局と連携し、海外の金融口座情報を自動で入手しています。「海外だからバレない」は、もはや通用しません。
- 手口の例: 海外法人からのコンサルティング報酬を、海外の預金口座に隠したまま申告しない。
- 手口の例: アフィリエイト収入を海外の取引所で暗号資産に交換し、所得を隠す。
3. 無申告事案(告発13件)
そもそも申告・納税を行わない、申告納税制度の根幹を揺るがす悪質な行為です。特に、新しいビジネスモデルでの無申告が目立ちます。
- 手口の例: 動画配信サイトからの使用料収入や、ネットショップでの販売収入を一切申告しない。
- 手口の例: ネットワークビジネス(連鎖販売取引)の代理店報酬を申告しない。
「社会的波及効果の高い事案」にも厳しく対応
国税庁は、世間の耳目を集める事案や、専門家が関与する悪質な事案にも厳しく対応しています。令和6年度は以下のような事案が告発されました。
- 脱税指南者: なんと税理士自らが不正加担先を用意し、顧客に脱税を指南していた。
- 専門家の脱税: 弁護士法人が架空の業務委託費を計上。
- 時流に即した事案: 人気タレントが所属する芸能事務所が架空の外注費を計上。/ダイエット目的で人気の医療法人が、理事長の高級腕時計を「診療材料仕入高」に偽装。
不正に得た資金の使途は、不動産購入、高級車や高級時計、暗号資産への投資、ギャンブル、交際費などだったようです。隠匿場所も「物置内の金庫」や「室内のスーツケース」など、生々しい実態が報告されています。
「知らなかった」では済まされない
令和6年度の統計データ(一審判決99件)では、有罪率100%、うち13人には実刑判決が下されています。査察(マルサ)に狙われたら最後、と言っても過言ではありません。
「ウチはこんな大それた不正はしていない」と思うかもしれません。しかし、今回告発された手口の中には、「ネット販売の売上除外」や「海外からのアフィリエイト収入の無申告」など、デジタル化・国際化の中で「これくらい大丈夫だろう」という甘い認識から始まった可能性のあるものも含まれています。
悪質な脱税は、真面目に納税している他の事業者が馬鹿を見る、不公平な行為です。デジタル取引や国際取引が当たり前になった今こそ、自社の経理処理が「悪意はないが、結果として不正を疑われる」ものでないか、今一度見直す時です。少しでも不安があれば、手遅れになる前に、必ず税理士にご相談ください。