「フリーランスや社長は経費が使えていいな…」と思っている会社員(給与所得者)の皆さん。実は、会社員にも「経費」のように使える「特定支出控除(とくていししゅつこうじょ)」という制度が存在します。
ただし、結論から言うと、この制度は「知っていても、使うのは非常に難しい」のが現実です。なぜなら、適用を受けるためのハードルが驚くほど高く設定されているから。今日は、この「特定支出控除」のリアルな実態と、それでも活用できる可能性について、分かりやすく解説します!
「特定支出控除」とは?
会社員には、年収に応じて自動的に「これくらいは経費がかかるよね」と認められている「給与所得控除」という名の概算経費枠があらかじめ用意されています。
「特定支出控除」とは、この自動で認められる給与所得控除とは別に、「職務に直接必要な特定の支出」が、ある基準額を超えた場合に、その超えた金額分を追加で所得から差し引く(=税金を安くする)ことができる制度です。
対象となる「特定支出」は?
対象となる支出は、法律で以下の7つに限定されています。
- 1. 通勤費(会社から支給される分を超える場合)
- 2. 職務上の旅費(会社が負担しない出張費など)
- 3. 転居費(転勤に伴う引越し費用)
- 4. 研修費(職務に必要な技術や知識を学ぶための費用)
- 5. 資格取得費(職務に必要な資格を取るための費用)
- 6. 単身赴任者の帰宅旅費
- 7. 図書費、衣服費、交際費など(※職務に直接必要で、会社が証明したもの)
特に、最近の「リスキリング(学び直し)」ブームで注目される「研修費」や「資格取得費」が含まれているのがポイントです。
なぜ「使えない」制度と言われるのか?
では、なぜこんなに良い制度があるのに、ほとんど使われていないのでしょうか?理由は大きく2つあります。
ハードル1:基準額が「給与所得控除額の半分」と高すぎる
この制度が使えるのは、特定支出の合計額が、その年の「給与所得控除額の半分」を超えた場合のみ。この「給与所得控除額」自体が大きな金額なのです。
会社員の「みなし経費」枠です。例えば、年収500万円の場合、給与所得控除額は144万円です。年収が上がるほど、この控除額も大きくなります。
例を挙げましょう。年収500万円の人の場合、給与所得控除額は144万円。その半分は72万円です。
つまり、年間に自腹で72万円を超える研修費や図書費を使わなければ、この制度は1円も使えない(スタートラインに立てない)のです!
ハードル2:「会社の証明書」という最大の壁
これが最も高いハードルです。特定支出として認めてもらうためには、支出した領収書があるだけではダメで、「その支出が会社の業務に直接必要であった」ということを、勤務先(会社)が証明した書類を税務署に提出する必要があります。
会社側も、安易に証明書を発行すると税務調査などで説明を求められるリスクがあるため、発行には非常に消極的なケースがほとんどです。
それでも、あなたが今すべきアクション
このように、「特定支出控除」は会社員にとって「絵に描いた餅」になりがちな制度です。(ちなみに、インボイス制度などで経費管理がシビアになった個人事業主と比べると、会社員は給与所得控除で手厚く守られている、とも言えます)
しかし、ゼロリスクでできるアクションはあります。
1. まずは「領収書」をすべて集める
制度が使えなかったとしても、職務に関連する支出(書籍代、研修費、交通費など)の領収書は1年間すべて集めてみてください。集計して「意外とこんなに使っているんだ」と把握することが第一歩です。「もしかしたら基準額を超えるかも?」という年があるかもしれません。
2. 会社に「証明書」の存在を確認する
ダメ元で構いません。「こういう制度があると聞いたのですが、当社に業務に必要な資格取得費用の証明書を発行する規定はありますか?」と、総務や人事に(軽いトーンで)聞いてみましょう。意外と前例があるかもしれません。
会社員であっても、自分の「支出」に意識的になることは、将来の独立・起業や、資産形成においても非常に重要です。この「特定支出控除」という制度をきっかけに、ご自身のお金とキャリアを見つめ直してみてはいかがでしょうか。