「老後2000万円問題」が話題になりましたが、ご自身が将来いくら年金をもらえるか、具体的に把握していますか?
結論から言うと、平均的なサラリーマン(平均年収450万円、40年勤務)の場合、厚生年金と国民年金を合わせて月額約15〜16万円がひとつの目安です。
「あれ、思ったより少ない…」と感じた方、その感覚は鋭いです。
公的年金は、もはや「それだけで老後安泰」というものではありません。経営者や個人事業主が本当に考えるべきは、公的年金は「最低限のベース」と割り切り、年金「だけ」に頼らない戦略です。
年金制度の「キホン」と「限界」
日本の公的年金は「2階建て」です。
- 1階部分:国民年金(基礎年金)
全国民共通。満額で月額約6.8万円(令和6年度)。 - 2階部分:厚生年金
会社員や法人の役員(経営者)が加入。現役時代の報酬と加入期間に応じて変動。
よく「年金制度は破綻する!」と言われますが、制度自体が即座になくなる可能性は低いです。しかし、深刻な少子高齢化を考えれば、将来的に「支給額が実質的に減る」「支給開始年齢が70歳に引き上げられる」といったシナリオは、ほぼ確実と考えられます。
だからこそ、不確実な公的年金に100%依存するのではなく、「自分でコントロールできる資産」を育てることが重要なのです。
具体例:平均年金サラリーマンの試算
冒頭の「月額15〜16万円」という数字の根拠を、平均的なモデルケースで見てみましょう。この現実を知ることがスタートです。
【モデルケース】
・Aさん(22歳で就職、60歳で定年)
・現役時代の平均年G収:450万円(月収37.5万円と仮定)
・厚生年金加入期間:38年間(456ヶ月)
1. 国民年金(基礎年金):月額 約6.8万円
2. 厚生年金(報酬比例部分):月額 約9.3万円(※平均報酬37.5万円の場合の超概算)
【合計受給額(月額)】
約6.8万円 + 約9.3万円 = 約16.1万円
これが「平均」のリアルな数字です。もしご夫婦で、奥様が専業主婦だった場合、世帯の受給額は約22.9万円。ここから税金や社会保険料が引かれます。ゆとりある生活は難しいでしょう。
年金「だけ」に頼らない 経営者の資産戦略
サラリーマンと違い、経営者は「自分の老後を自分でデザイン」できます。だからこそ、世間一般の「老後対策」とは違う視点が必要です。
鉄則1:iDeCoはNG。しかし「小規模企業共済」は必須。
まず、老後資金の準備としてよく挙げられる2つの制度を、経営者目線で仕分けします。
掛金は全額所得控除になりますが、最大のデメリットは「60歳まで一切引き出せない」こと。事業で急に資金が必要になっても、このお金は使えません。事業の「機会損失」リスクを考えると、経営者には推奨しません。
【小規模企業共済】
こちらも掛金は全額所得控除。最大の違いは、「掛金の範囲内で、事業資金の低利な借り入れができる」点です。節税しながら積み立てつつ、いざという時は「ビジネスローン」よりはるかに有利な条件で資金を調達できる。この「事業のセーフティネット機能」こそが、経営者にとって最強のメリットです。
iDeCoの「完全な資金拘束」は避け、小規模企業共済の「借入機能」を保険として活用する。これが経営者の正しい選択です。
鉄則2:「事業」こそが最強の年金である
経営者にとって、最大の老後資産は「公的年金」ではありません。「稼ぎ続けてくれる事業(会社)」そのものです。
iDeCoで資金を塩漬けにするくらいなら、そのお金を自社のWebマーケティングや新しい設備、優秀な人材採用に「投資」し、将来の事業キャッシュフローを増やす方が、はるかに高いリターンを生みます。
そして、「小規模企業共済」は、その大切な事業が傾きかけた時に資金を融通してくれる、いわば「事業を守る」ための制度でもあるのです。
鉄則3:攻めの資産は「新NISA」で流動性を確保
事業投資(攻め)と小規模企業共済(守り)を固めたら、個人の資産形成も必要です。ここでも「流動性(いつでも引き出せること)」を最優先します。
そこでお勧めなのが、2024年から大幅に進化した「新NISA(ニーサ)」です。
NISAであれば、iDeCoと違って掛金の所得控除はありませんが、運用益が非課税になり、かつ、必要な時にはいつでも引き出せます。
公的年金は、あくまで「最低限のベース」として割り切り、期待しない。将来の不安は、「事業の成長(攻め)」、「小規模企業共済(守り・節税・セーフティネット)」、「新NISA(個人の攻め)」の3本柱で打ち消していく。これが、変化の激しい時代を生き抜く経営者の、最も合理的で力強い戦略です。