最近、海外のSaaS(サース:クラウドで利用するソフトウェア)やWeb広告、コンサルティングを利用する中小企業が急増しています。円安でコストが上がっている中、さらに「消費税」で損をしているケースが目立つのをご存知ですか?
原因は、インボイス制度。もし皆さんが取引している海外事業者が、日本のインボイス登録をしていなければ、皆さんが支払った消費税は「仕入税額控除」ができず、消費税の納税額が跳ね上がる可能性があるのです。
なぜ海外事業者のインボイス登録が必要?
インボイス制度が始まって約2年。国内の取引先がインボイス登録しているか(T番号を持っているか)は、皆さんかなりチェックされていると思います。では、なぜ海外の事業者まで気にする必要があるのでしょうか?
それは、たとえ相手が海外の会社でも、日本国内の事業者向けにサービス(専門用語で「事業者向け電気通信利用役務の提供」などと言います)を提供する場合、その取引は日本の消費税の課税対象となるからです。
これは、消費税を納める際に、売上にかかった消費税から、仕入れや経費で支払った消費税を差し引く仕組みのことです。この「差し引く権利」を行使するために、原則として「インボイス(適格請求書)」が必要になります。
つまり、海外のSaaS企業であっても、日本のインボイス制度に登録し、T番号の入った請求書を発行する義務を負うケースがあるのです。そして、私たちが仕入税額控除を受けるためには、そのインボイスが必要不可欠となります。
最大の注意点!「経過措置」は使えません
インボイス制度には、国内の免税事業者(インボイス未登録の事業者)からの仕入れでも、一定期間は8割(2026年9月まで)や5割(2029年9月まで)を控除できる「経過措置」があります。
「じゃあ、海外事業者が未登録でも8割は控除できるんだ」——そう思ったら、それが最大の落とし穴です。
この経過措置は、あくまで「国内の免税事業者」を対象としたもの。海外の事業者がインボイス登録をしていない場合、この経過措置は一切適用されません。つまり、控除できる金額は「ゼロ」です。
海外取引で確認すべき3つのステップ
では、どうすればこの「隠れコスト」を防げるのでしょうか。契約前に、以下の3ステップを必ず確認してください。
1. 請求書に「T番号」があるか?
まずは基本です。請求書や領収書にT番号が記載されているかを確認しましょう。大手海外IT企業(Google, Amazon, Microsoftなど)の多くは登録済みですが、新興のSaaS企業などは未登録のケースも少なくありません。
2. 相手が「事業者向け」サービスか?
少し難しいですが、海外からのサービス提供には、消費税の仕組みが2種類あります。一つは、私たちが消費税の申告義務を負う「リバースチャージ方式」。もう一つは、海外事業者が申告する「事業者向け電気通信利用役務の提供」です。後者の場合、相手がインボイス登録していないと、仕入税額控除がゼロになります。
3. 未登録なら「登録予定」はあるか?
もし未登録だった場合、ダメ元でも相手のサポートデスクに「日本のインボイス制度に登録する予定はありますか?」と問い合わせてみましょう。多くの日本企業から声が届けば、海外企業側も対応を検討するきっかけになります。
コスト管理は「攻め」の第一歩
「たかが消費税10%」と思うかもしれませんが、これが年間を通すと数十万円、数百万円のコスト差になることもあります。特に円安が続く中、海外サービスの利用コストは実質的に上がり続けています。
サービスを契約する際は、機能や価格だけでなく、「インボイス登録の有無」も比較検討の材料に加えるべきです。場合によっては、インボイス登録をしている国内代理店経由で契約する、あるいは別のサービスに乗り換える、といった経営判断も必要になります。
無駄な税金を払わないよう「守り」を固めることこそが、新しいチャレンジをするための「攻め」の原資を生み出します。まずは今契約している海外サービスがどうなっているか、一度チェックしてみてください!