従業員が育児休業(育休)を取得する際、経営者として最も気になるのは「人手不足」と「コスト」ではないでしょうか。しかし、コストに関しては朗報があります。育休期間中の社会保険料は、従業員本人だけでなく、会社負担分も全額免除されるのです。
毎月の社会保険料負担は、給与の約15%(会社負担分)にも及びます。この負担がゼロになる仕組みは、キャッシュフロー改善の大きなチャンスです。今回は、意外と知られていない「会社側のメリット」と「注意すべき落とし穴」について解説します。
「タダ」になるのはこれだけある!
育休中の免除制度は非常に強力です。要件を満たして年金事務所に申請すれば、以下の保険料の支払いが一切不要になります。
- 健康保険料(介護保険料含む)
- 厚生年金保険料
- 子ども・子育て拠出金(※会社負担のみの制度ですが、これも免除!)
ポイントは、「支払わなくていいのに、納付したとみなされる」という点です。従業員の将来の年金額が減ることはありませんし、会社の納付実績にも傷がつきません。まさにWin-Winの制度設計になっています。
免除期間の計算ルール
免除される期間は、「育休を開始した日の属する月」から「終了する日の翌日が属する月の前月」までです。
少しややこしい表現ですが、簡単に言うと「月末時点で育休中なら、その月の保険料は免除」というのが基本ルールです。例えば、7月15日から育休に入り、8月31日時点でまだ育休中なら、7月分と8月分の保険料が免除されます。
ここだけは注意!「賞与」と「短期育休」の落とし穴
昨今の「産後パパ育休(出生時育児休業)」の普及に伴い、短期間の育休を取得するケースが増えています。ここで経営者がミスしやすいのが賞与(ボーナス)にかかる社会保険料です。
以前は「月末に1日でも休んでいれば賞与分も免除」という裏技のようなルールがありましたが、現在は改正されています。
- 毎月の給与:その月の末日が育休期間中であれば免除(または同月中に14日以上取得)。
- 賞与(ボーナス):育休期間が連続して1ヶ月(暦日で計算)を超えている場合に限り免除。
「ボーナス月の月末に育休を取らせて保険料を節約しよう」という古いテクニックは通用しませんので、適正な運用が必要です。
手続きは「申出書」を出すだけ
手続き自体はシンプルです。「健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書」を、管轄の年金事務所(または事務センター)へ郵送や電子申請で提出するだけです。
従業員から申し出があったら、速やかに提出しましょう。提出が遅れて一度保険料が引き落とされても、後から還付されますが、キャッシュフローを考えれば事前手続きがベストです。
これからの経営戦略としての「育休」
社会保険料率は年々上昇トレンドにあり、会社経営における法定福利費の負担は重くなる一方です。そんな中、この免除制度は合法的にコストを削減できる数少ない手段です。
さらに、男性育休の取得促進は、採用面での強力な武器にもなります。「うちは育休中、会社の負担がない分、復帰後のサポートにお金を回せるよ」と言える企業は強いです。
複雑な計算や手続きに不安がある場合は、私たち専門家にお任せください。制度をフル活用して、従業員も会社も幸せになる経営を目指しましょう!