「今期も黒字だ!」と喜んでいたのに、なぜか手元の現金が足りない…。仕入れ代金や給与の支払いに追われ、銀行を駆け回る…。信じられないかもしれませんが、これは多くの企業で起こりうる「黒字倒産」の典型的な入り口です。
黒字倒産とは、帳簿上(損益計算書)では利益が出ているにもかかわらず、手元の現金(キャッシュ)が尽きてしまい、事業が継続できなくなる(倒産する)ことです。なぜ、こんな恐ろしいことが起こるのでしょうか?その最大の原因は、「利益」と「現金」のズレにあります。
なぜ「利益」と「現金」はずれるのか?
会社の成績表には「損益計算書(PL)」があります。これは「どれだけ儲かったか(利益)」を示します。しかし、経営者が本当に見なければならないのは、もう一つの重要な流れ、「現金の流れ(キャッシュフロー)」です。
この2つがずれる最大の原因は、取引の「タイミング」です。
- 売掛金のワナ:
商品を1000万円で販売しても(売上計上=黒字)、その入金が2ヶ月後なら、今月の手元現金は1円も増えません。 - 在庫のワナ:
「売れるはず」と商品を仕入れすぎると(在庫)、その仕入れ代金は先に出ていきます。売れるまで現金は入ってきません。 - 設備投資のワナ:
高額な機械を買うと、お金は一気に出ていきますが、会計上は「減価償却(げんかしょうきゃく)」として数年に分けて費用計上されます。そのため、利益は出ているように見えても、現金はゴッソリ減っているのです。
特に最近は、円安や原材料価格の高騰で、仕入れコストが急上昇しています。売上は好調でも、先に支払う現金がどんどん大きくなり、入金が追いつかない…という危険な状態に陥りやすいのです。
あなたの会社は大丈夫?危険度チェック
「利益は出ているのに現金がない」状態は、人間で言えば「血液(現金)が止まりかけている」のと同じ。以下の項目に当てはまったら要注意です。
これは、会社や事業における「現金の流れ(キャッシュフロー)」を管理することです。「いつ、いくら入ってきて(収入)、いつ、いくら出ていくか(支出)」を把握し、支払いが滞らないよう調整することを指します。経営の心臓部とも言えます。
損益計算書だけを見て一喜一憂するのではなく、「資金繰り表」という、現金の出入りだけを記録した表を作ることが、黒字倒産を防ぐ第一歩です。
黒字倒産を回避する「3つの鉄則」
では、どうすればこの恐ろしい事態を避けられるのか? 経営者が今すぐ実践すべき「3つの鉄則」をお伝えします!
1. 「現金の流れ」を毎日チェックする
損益計算書(PL)は月次でも構いませんが、現金の流れ(資金繰り)は毎日チェックするクセをつけましょう。「いつ、いくら入金があり、いつ、いくら支払いがあるか」を最低でも3ヶ月先まで予測し、一覧表(資金繰り表)にします。Excelで自作するも良し、会計ソフトの機能を使うも良し。とにかく「見える化」することが命です。
2. 売掛金の回収は「1秒でも早く」!
売上を立てる(請求書を出す)ことと、それを回収すること(入金)は、まったく別のスキルです。入金サイト(請求から入金までの期間)が長すぎる取引先はありませんか? 「入金されて初めて、その仕事は完了した」という意識を持ち、回収ルールの見直しや、時には前金をもらう交渉も重要です。
3. 「ムダな在庫」は持たない
在庫は「お金が形を変えたもの」です。売れなければ、ただの(現金を圧迫する)モノになってしまいます。「欠品が怖い」という気持ちも分かりますが、本当に必要な量だけを仕入れる「適正在庫」を維持する努力が、キャッシュフローを劇的に改善させます。
利益を出すことはもちろん重要です。しかし、それ以上に「会社に現金を残すこと」こそが、会社を存続させる最大のカギとなります。「ウチは黒字だから大丈夫」——その思い込みが一番危険です。まずは自社の「現金の流れ」に、今すぐ注目してみてください!